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第168回企画展示 「尊経閣叢刊」にみる古典文学の世界

平成20年11月1日(土曜日)〜11月30日(日曜日)
展示風景 土佐日記

展示に寄せて

 新井白石の「加賀は天下の書府」という言葉はあまりにも有名ですが、それは、5代藩主前田綱紀を代表とする加賀藩主が蒐集した貴重な典籍や文書を指しており、現在、財団法人前田育徳会により東京・駒場の「尊経閣文庫」に収蔵されています。 尊経閣文庫の蔵書は、現存最古の『日本書記』の写本や藤原定家筆の『土佐日記』の写本など、国宝19件、重要文化財54点を含む、和書7,500部、漢籍4,100部、文書2,500点を数え、質、量ともに我が国有数の優れたものです。
今回展示しました「尊経閣叢刊」は、大正12年の関東大震災によって多数の文物が失われるのを目の当たりにした前田家16代利為が、貴重な図書の亡失を危惧し、複製を刊行したものです。大正15年から昭和27年にかけて作成された「尊経閣叢刊」の造本は、精巧善美を極め、これに匹敵する複製は他には見られないと言われています。 今回は当館所蔵の「尊経閣叢刊」から、古典文学に関するものを特に選び、展示しました。複製ではありますが、国宝や重要文化財の宝庫とも言える「尊経閣文庫」所蔵資料の、時代を超えた、美しく、優雅な冊子や巻子の数々をご覧ください。

尊経閣(そんけいかく)文庫(ぶんこ)と尊経閣(そんけいかく)叢刊(そうかん)について

尊経閣(そんけいかく)文庫(ぶんこ)
 昭和3年(1928)4月、前田家16代利為(としなり)が東京・駒場邸内に「尊経閣文庫」を設立し、加賀藩主前田家伝来の古書籍、古美術品などの文化財を保存、管理する公益法人・前田育徳会(現在の(財)前田育徳会)を創設しました。 「尊経閣文庫」の名称は、加賀藩5代藩主綱紀(つなのり)が自身の蒐書を「尊経閣蔵書」、文庫を「尊経閣」と呼んだことに由来しています。 蔵書の中核をなすのは、綱紀が蒐集した和・漢・韓の写本や刊本ですが、3代藩主利常(としつね)が蒐集した「小松蔵書」、4代藩主光高が蒐集した「金沢蔵書」など、代々の藩主が蒐集した蔵書も含まれています。 綱紀は原物の購入とともに、精密な影写や※首尾留(しゅびどめ)を数多く作らせました。これにより、貴重な蔵書の散逸を免れ、今日に伝わった書籍等は極めて多く、蔵書には、「前田家本」の名で呼ばれる重要な伝本等、国宝・重要文化財に指定されたものが数多くあります。 収蔵された蔵書は、『尊経閣文庫国書分類目録』、『尊経閣文庫漢籍分類目録』で調べることができ、一定条件のもとで研究者は文庫の資料を閲覧をすることもできます。 なお、石川県立美術館に前田育徳会尊経閣文庫分館があり、所蔵物の一部を展示しています。『尊経閣文庫加越能文献書目』に登載された郷土資料は、金沢市立玉川図書館近世史料館が収蔵しています。 ※本の首端と末尾を写し留めたもの


尊経閣(そんけいかく)叢刊(そうかん)
大正12年(1923)の関東大震災によって多数の文物が失われるのを見て、前田家16代利為が、万一の亡失に備え、古文書・書籍の複製を作ることを計画し、保存・複製事業をするために公益法人前田育徳会を大正15年(1926)2月に設立しました。 『尊経閣叢刊』と名づけられた複製刊行事業は、大正15年の「古語拾遺」に始まり、戦中も続行されましたが、昭和27年(1952)に刊行された「建治三年記」をもって中断しました。その後事業は、「太平記」等の影印本を作成、昭和48年(1973)に事業を復活し、現在の『尊経閣文庫善本影印集成』に引き継がれています。 復刻された典籍類は、用紙や装丁などの再現に努めた精巧なもので、この影印本『尊経閣叢刊』自体が、たいへん貴重なものとなっています。


主な展示資料解説

  1. 入道右大臣集 (彩牋)   平安
    雲母摺文様の色変り唐紙・蝋箋・斐紙などを交用した綴葉装の冊子に、入道右大臣(藤原頼宗)の家集を写したもの。装丁には金銀の箔を使うなど、美麗である。

  2. 古今和歌集   伝藤原清輔筆    鎌倉
    醍醐天皇の勅命で撰集された我が国最初の勅撰和歌集。本書は、尊円親王(1298−1356)伝領の清輔本と称されるものであり、古写本の中でも、注記が多く書き込まれており、研究上、大きな価値を有する。

  3. 道済集 (彩牋)残巻   伝藤原忠家筆   平安
    源道成(  〜1036)家集の残巻である。表紙は緞子で、見返しには金銀の切箔を置いた料紙を使い、華麗優雅なもの。散し書きの書風は流麗で、典雅な趣があり、洗練されている。

  4. 豊明絵草紙   鎌倉
    若くして栄華を極めた貴公子が、次第に世の儚さを知り出家、念仏に没頭して極楽往生をとげる人生を描いた絵巻。平安王朝の世界を繊細な線で表現する作風は、鎌倉中期から起こった。大和絵が美しい。詞書は、後光厳院(1338−1374)の筆と伝えられる。

  5. 枕草子  鎌倉 
    現存する「清少納言枕草子」の最古の写本である。鎌倉中期より前の書写。原本は、二条為氏(1222−1286)筆とも民部卿局筆とも伝えられるが、明らかではない。蔓牡丹文の緞子を使った表紙は豪華。この本は早くから前田家に伝えられ、「家君(四代光高)御元服記」に、寛永6年に将軍がお成りの時、書院の床脇飾りに用いたという
    記録が残っている。

  6. 土佐日記  藤原定家筆   鎌倉
    紀貫之(871?−946)が女性の筆に仮託して書いた我が国最初の仮名文字による日記文学。藤原定家が紀貫之の自筆の本を写したもの、と伝える。末尾2葉は貫之の筆跡を臨摸して示してある。三代藩主利常が入手した前田家の貴重な秘蔵品。

  7. 後撰和歌集 浄弁本   南北朝
    二十巻の和歌集で、第二番目の勅撰集。これが摂関制確立期の記念碑的歌集といわれるのは、前代の権威ある歌人の作に、当代のすぐれた歌人の「みやび」の歌をくわえたものであることによる。定家の天福2年(1234)の原跋及び自跋があり、その下に「桑門明静」(定家卿法号)と記してある。この本は天福本を浄弁が書写したもの。

  8. 拾遺和歌集 浄弁本   南北朝
    二十巻の和歌集で、第三番目の勅撰集。花山天皇(968−1008)が撰せられたとか、藤原公任(966−1041)が撰進したとか言われ、寛弘2(1005)に成立したもの。伝本としては冷泉家本と二条家本に分かれているが、この本は二条家本。

  9. 新古今和歌集   伝二条為親筆    南北朝
    鎌倉時代に入ってから初めての勅撰集。書風から室町初期の書写と思われるが、一部に江戸時代の補筆がある。内容は切継の歌の一部を存し、撰者名の頭注を有すること等により、定家本を写した二条家本の系統に属するとみられる。異本の多い「新古今集」の中でも重要な伝本である。

  10. 方丈記   鎌倉末期
    鎌倉末期から室町初期の書写で、大福寺本についで古いとみられる写本である。古筆家が冷泉為相と伝える類の優れた書風で、巻末付記の、和讃四丁のみは南北朝頃の別筆追書である。

  11. 祭礼絵草紙   室町
    室町中期の大和絵絵巻。祭礼の様子を描いたものといわれ、行列に加わる人々の服装、家の中の様子、祭礼の具など、当時の風俗の様子がうかがわれる。筆者は土佐光重といわれており、土佐派系統の画風で、充実した温雅な内容である。

  12. 三宝絵   綱紀模写本   江戸
    源為憲(  〜1011)が冷泉天皇の皇女尊子内親王のために、仏法の要旨を説いたもの。永観2年(984)の序がある。元来は絵巻物であったらしいが、今は絵は伝わらない。綱紀の跋によれば醍醐寺釈迦院の有雅の蔵する本を影写したものであるが、有雅の本は所在不明になったため、現在はこの本が唯一の伝本となっている。

◎原本は国宝   ○原本は重要文化財      

展示目録

No タイトル 冊数 責任表示 出版年 請求記号
1 古語拾遺 1 亮順‖著 1926 090/1/1
2 色葉字類抄  2 〔橘 忠兼‖著〕  1926 090/1/2-1〜2
3 豊太閤三国処置太早計 1   1937 090/1/3
4 枕草子 5 〔清少納言‖著〕    090/1/4
5 重広会史  20   1927 090/1/5-1〜20
6 土佐日記 1   1928 090/1/6
7 西宮記  1 源 高明‖著 1928 090/1/7
8 古今和歌集 清輔本 2 紀 貫之‖撰 1928 090/1/8-2
9 桂川地蔵記  1   1929 090/1/9
10 世説新語  5 劉 義慶‖撰 1929 090/1/10-1〜3
11 宝積経要品 1   1929 090/1/11
12 祭礼絵草子 1 土佐 光重‖画 1929 090/1/12
13 山水併野形図 1 増円‖撰 1930 090/1/13
14 自撰家集 1   1930 090/1/14
15 拙稿千百  2 崔 〓‖著 1930 090/1/15-1〜2
16 新古今和歌集  4   1930 090/1/16-1〜4
17 年中行事秘抄 1 中原 師世‖著 1931 090/1/17
18 御成敗式目 鶴岡本 1   1931 090/1/18
19 日本霊異記 巻下 1 景戒‖著 1931 090/1/19
20 仁和寺御室御物実録 1   1932 090/1/20
21 老子億  2 王 純甫‖著 1932 090/1/21-1〜2
22 類聚国史  4 菅原 道真‖著 1932 090/1/22-1〜3
23 順渠先生文録 4   1932 090/1/23-1〜4
24 十五番歌合 1 藤原 公任‖著 1932 090/1/24
25 天狗草紙 園城寺巻 1   1933 090/1/25
26 広田社歌合  1   1933 090/1/26-1〜3
27 寝覚  3 〔菅原孝標女〕‖著 1933 090/1/27-1〜3
28 中外抄  1 中原 師元‖編 1934 090/1/28
29 一本種  4 前田 光高‖著 1934 090/1/29-1〜2
30 両京新記  1 韋述‖撰 1934 090/1/30
31 恵慶集  2 恵慶‖著 1935 090/1/31-1〜2
32 赤穂義人録 1 室 鳩巣‖著 1935 090/1/32
33 三宝絵  3 源 為憲‖著 1935 090/1/33-1〜3
34 古文孝経 1 甘露寺 親長‖著 1935 090/1/34
35 豊明絵草子 1   1936 090/1/35
36 楠木合戦注文・博多日記 1   1936 090/1/36
37 後撰和歌集 2   1936 090/1/37-1
38 古周易経解略  4 奥村 尚寛‖著 1936 090/1/38-1〜4
39 大和物語 1   1936 090/1/39
40 冥報記  1 唐臨‖撰 1937 090/1/40
41 二中歴 13   1937 090/1/41-1〜13
42 節用集 1   1937 090/1/42
43 古事記  3   1938 090/1/43-1〜3
44 法性寺殿御集 1   1937 090/1/44
45 遍照発揮性霊集 1 真済‖撰 1938 090/1/45
46 春草堂集 16 太田 錦城‖著 1938 090/1/46-1〜16
47 江談抄 1 〔大江 匡房‖談〕
〔藤原 実兼‖記〕
1938 090/1/47
48 方丈記 1 鴨 長明‖著 1938 090/1/48
49 こけ衣  4   1939 090/1/49-1〜4
50 入木秘書 1 尊丹親皇‖撰 1939 090/1/50
51 温故知新書  3   1939 090/1/51-1〜3
52 中務集 1   1939 090/1/52
53 今鏡  1   1939 090/1/53
54 閑居友  2   1940 090/1/54-1〜2
55 南都巡礼記 1 〔実叡‖著〕 1940 090/1/55
56 平家物語 熱田本 12   1940 090/1/56-1〜11
57 斎宮女御集 〔小島切〕 1 斎宮徽子女王‖著 1942 090/1/57
58 定頼集 1 藤原 定頼‖著 1942 090/1/58
59 元輔集 1   1942 090/1/59
60 入道右大臣集 1 藤原 頼宗‖著 1943 090/1/60
61 道済集 1 筆写不詳 1935 090/1/61
62 玉燭宝典  11 〔杜 台卿‖著〕
〔前田育徳会尊経閣文庫‖編刊〕
1943 090/1/62-1〜8
63 菅家伝 1   1944 090/1/63
64 荏柄天神縁起  3 〔藤原 行長‖筆〕 1935 090/1/64-1〜3
65 列子張註  3 張 堪‖註 1949 090/1/65-1〜3
66 金剛童子随心呪 1   1951 090/1/66
67 建治三年記 1 三善 康有‖著 1952 090/1/67